マカゼタマハの世界
わたくし真風玉葉(マカゼタマハ)のオリジナル小説を掲載していきます。 左のカテゴリより作品を選んでお読みください。
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銀杏坂(7)
朝。どこの家庭も同じく迎える朝食の時間。高橋伸治の家庭は母とふたりきりで迎える朝食の時間だった。
いつもと同じく、伸治は朝食をとりながらバイクの雑誌を読み、キッチンの前では母の翔子が身支度を整えながら朝食を取っていた。
ただいつもと違うのは、伸治は母に対してある種の気まずさを覚えていた。
それは、父親がなくなった真実を教えてくれなかったことに対する不信感もあったが、それ以上に実の息子にも明かすことなく父親の死を自分ひとりで胸に秘めていたことに対する敬意の思いだった。
ここに来るまでに、長くつらい道のりだったと思われる。
被害者の遺族と示談金、近所の目、親戚の目、全部自分ひとりで背負ってきていたのだ。そしてもちろん一家の大黒柱として、自分をちゃんと育ててきた。事実を知らなかったとはいえ、伸治は今までの自分はあまりに母親に対してわがままだったと反省していた。
「なあ、俺さあ、高校になったらバイト始めるから」
「うん? 前からそのつもりだったでしょ?」
翔子は身支度の手を止めた。
「バイトは始めるけど、バイクは買わないから。おふくろの少ない稼ぎに少しでもプラスしてやろうと思ってさ」
「バカいってんじゃないよ。あんたの世話にならなくたって、なんとかやりくりできるんだから。今までできてたんだから、これからもできるわよ」
なぜだか分からないが翔子は急に怒りはじめた。
「まあ、バイク乗るのは社会人になってからでも遅くはないからさ。この家にやっかいになってる間は、俺の生活費くらいは納めようと思ってね」
「生意気言ってえ。あんたあんなにバイク乗りたがってたのに、どうして急にそんなこというのさ。怪しい。何かたくらんでるな」
「何もないよ。それに俺がバイク乗るの反対してたの、おふくろだろ。しばらくはバイク乗らないって言ったんだから、少しは喜べよ」
せっかくの親切心で言ってやってるのに、素直じゃない母親の反応に、伸治はだんだん腹が立ってきた。
「あ、いっけね、もうこんな時間だ。いってきまーす」
伸治は時計を見るなり大声を上げた。急いでカバンをつかむと母親を無視するように家を飛び出した。
「ちょっと伸治」
勢いよく飛び出していった息子の背中に向かって、翔子は叫ぶように言った。伸治は聞こえているのかいないのか、返事はなかった。翔子はあきれるようにため息をついた。
テーブルの上に置きっぱなしになっているオートバイの雑誌を手に取ると、翔子の表情は少し穏やかになった。そして仏壇で微笑む亡き夫に祈るように手を合わせた。
<終>
いつもと同じく、伸治は朝食をとりながらバイクの雑誌を読み、キッチンの前では母の翔子が身支度を整えながら朝食を取っていた。
ただいつもと違うのは、伸治は母に対してある種の気まずさを覚えていた。
それは、父親がなくなった真実を教えてくれなかったことに対する不信感もあったが、それ以上に実の息子にも明かすことなく父親の死を自分ひとりで胸に秘めていたことに対する敬意の思いだった。
ここに来るまでに、長くつらい道のりだったと思われる。
被害者の遺族と示談金、近所の目、親戚の目、全部自分ひとりで背負ってきていたのだ。そしてもちろん一家の大黒柱として、自分をちゃんと育ててきた。事実を知らなかったとはいえ、伸治は今までの自分はあまりに母親に対してわがままだったと反省していた。
「なあ、俺さあ、高校になったらバイト始めるから」
「うん? 前からそのつもりだったでしょ?」
翔子は身支度の手を止めた。
「バイトは始めるけど、バイクは買わないから。おふくろの少ない稼ぎに少しでもプラスしてやろうと思ってさ」
「バカいってんじゃないよ。あんたの世話にならなくたって、なんとかやりくりできるんだから。今までできてたんだから、これからもできるわよ」
なぜだか分からないが翔子は急に怒りはじめた。
「まあ、バイク乗るのは社会人になってからでも遅くはないからさ。この家にやっかいになってる間は、俺の生活費くらいは納めようと思ってね」
「生意気言ってえ。あんたあんなにバイク乗りたがってたのに、どうして急にそんなこというのさ。怪しい。何かたくらんでるな」
「何もないよ。それに俺がバイク乗るの反対してたの、おふくろだろ。しばらくはバイク乗らないって言ったんだから、少しは喜べよ」
せっかくの親切心で言ってやってるのに、素直じゃない母親の反応に、伸治はだんだん腹が立ってきた。
「あ、いっけね、もうこんな時間だ。いってきまーす」
伸治は時計を見るなり大声を上げた。急いでカバンをつかむと母親を無視するように家を飛び出した。
「ちょっと伸治」
勢いよく飛び出していった息子の背中に向かって、翔子は叫ぶように言った。伸治は聞こえているのかいないのか、返事はなかった。翔子はあきれるようにため息をついた。
テーブルの上に置きっぱなしになっているオートバイの雑誌を手に取ると、翔子の表情は少し穏やかになった。そして仏壇で微笑む亡き夫に祈るように手を合わせた。
<終>
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