マカゼタマハの世界
わたくし真風玉葉(マカゼタマハ)のオリジナル小説を掲載していきます。 左のカテゴリより作品を選んでお読みください。
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銀杏坂(4)
昼間での日陰で薄気味悪い銀杏坂は、夕刻ともなればさらに不気味さを増していた。
下校途中、伸治と清は銀杏坂の登り口に立っていた。
登り口までであれば、ふたりの通学路であるから普段から通っている場所なのだが、一歩坂道に踏み込めばそこはもう異世界だった。坂の上の総合病院を行き来する人たちも、どこか異性回の住人じみて見えるから不思議である。
この銀杏坂がどこか薄気味悪いのは、病院への坂道であることもひと役買っているようである。古くて、これまた不気味な総合病院自体が、どこか魔物の巣窟を連想させるので、坂の登り口も魔界への入り口じみて見える効果を生んでいるところがある。もっとも、毎日ここを通って病院に出勤する職員からすれば、いい迷惑なのだが。
「やっぱりおっかないよ。この時間の幽霊坂は。ホントに出そうなんだもん」
坂の入り口に来るなり、清は情けない声を出した。普段から清はこの坂の前を通る時は、自然と早足になるくらい、この場所を忌み嫌っていた。
めっきり日が短くなった秋空は、あっという間に辺りを真っ暗に染め上げる。冷たい秋風が銀杏並木を揺らし、あたりをざわざわと葉ずれの音でいっぱいにした。調子の悪い街灯は、ついたり消えたりを繰り返している。
伸治は寒さと怖さで震えている清に構わず坂を登りだした。坂の入り口に取り残された清は、あわてて伸治の後を追いかけた。
「待てよ。ひとりにするなよ。怖いじゃないか。ホントにここには幽霊が出るって噂が。この間だって、3組の三好が病院帰りに見たって言ってたし……」
ずんずん坂を登る伸治は、大きく右にカーブする道の外側の頂点で足を止めた。
銀杏坂は道の両側をがけに挟まれているが、地すべり防止のためのブロックがすべてのがけを埋め尽くして幾何学模様を作っていた。
「ここで俺のオヤジは死んだんだ」
やっと伸治が口を開いた。伸治が立ち止まった場所のブロックだけ、他のブロックとは違う種類の模様のブロックになっていた。ここだけ後から違うブロックを埋め込まれた形跡がある。
「九年前の今日。オヤジはこの坂をバイクで走っていて、このカーブを曲がりきれずに、この壁にぶつかって亡くなったんだ。ここのブロックはその時の事故で割れたんで、後から改修されたそうだ」
「オヤジさんプロのレーサーだったんだろ? なんでこんなカーブで……」
清は坂道のカーブ全体をみながらつぶやいた。特に急なカーブとは思えない、どこにでもあるカーブだったからだ。もしこの緩やかなカーブを曲がりきれずに事故を起こしたのであれば、それはよほどスピードを出していたか、前をよく見ていなかったということになる。
「俺はその真相が知りたいんだ。オヤジの運転は完璧なんだ。いつもレースで俺に予告してくれたとおりに勝ってくれてたし。絶対事故を起こすはずがないんだ」
伸治は父親が公道の交通事故で命を落としたことが今でも信じられないでいた。
「おじさんはここで死んだんじゃないわ」
いつの間にか伸治と清の前に見知らぬ小さな女の子が立っていた。雨も降っていないのに、カッパを着ている。
「おじさんはあそこで死んだのよ」
女の子はそう訂正すると、坂の上の方を指差した。坂の上に向かって銀杏並木が立ち並び、風にあおられてざわざわ揺れている。さらにその先には病院の建物が見えている。
伸治は、この女の子に見覚えがあった。ずっと以前、会ったような気がするのだが思い出せない。
もう一度、女の子の指差す銀杏の樹を見ると、枝から何かがぶら下がっているように見えた。風にあおられて揺れるその何かは、夕闇で形がはっきり分からない。
「この場所はね。あたしが死んだ場所なの」
「え? なんだって??」
伸治と清が同時に聞き返していた。
下校途中、伸治と清は銀杏坂の登り口に立っていた。
登り口までであれば、ふたりの通学路であるから普段から通っている場所なのだが、一歩坂道に踏み込めばそこはもう異世界だった。坂の上の総合病院を行き来する人たちも、どこか異性回の住人じみて見えるから不思議である。
この銀杏坂がどこか薄気味悪いのは、病院への坂道であることもひと役買っているようである。古くて、これまた不気味な総合病院自体が、どこか魔物の巣窟を連想させるので、坂の登り口も魔界への入り口じみて見える効果を生んでいるところがある。もっとも、毎日ここを通って病院に出勤する職員からすれば、いい迷惑なのだが。
「やっぱりおっかないよ。この時間の幽霊坂は。ホントに出そうなんだもん」
坂の入り口に来るなり、清は情けない声を出した。普段から清はこの坂の前を通る時は、自然と早足になるくらい、この場所を忌み嫌っていた。
めっきり日が短くなった秋空は、あっという間に辺りを真っ暗に染め上げる。冷たい秋風が銀杏並木を揺らし、あたりをざわざわと葉ずれの音でいっぱいにした。調子の悪い街灯は、ついたり消えたりを繰り返している。
伸治は寒さと怖さで震えている清に構わず坂を登りだした。坂の入り口に取り残された清は、あわてて伸治の後を追いかけた。
「待てよ。ひとりにするなよ。怖いじゃないか。ホントにここには幽霊が出るって噂が。この間だって、3組の三好が病院帰りに見たって言ってたし……」
ずんずん坂を登る伸治は、大きく右にカーブする道の外側の頂点で足を止めた。
銀杏坂は道の両側をがけに挟まれているが、地すべり防止のためのブロックがすべてのがけを埋め尽くして幾何学模様を作っていた。
「ここで俺のオヤジは死んだんだ」
やっと伸治が口を開いた。伸治が立ち止まった場所のブロックだけ、他のブロックとは違う種類の模様のブロックになっていた。ここだけ後から違うブロックを埋め込まれた形跡がある。
「九年前の今日。オヤジはこの坂をバイクで走っていて、このカーブを曲がりきれずに、この壁にぶつかって亡くなったんだ。ここのブロックはその時の事故で割れたんで、後から改修されたそうだ」
「オヤジさんプロのレーサーだったんだろ? なんでこんなカーブで……」
清は坂道のカーブ全体をみながらつぶやいた。特に急なカーブとは思えない、どこにでもあるカーブだったからだ。もしこの緩やかなカーブを曲がりきれずに事故を起こしたのであれば、それはよほどスピードを出していたか、前をよく見ていなかったということになる。
「俺はその真相が知りたいんだ。オヤジの運転は完璧なんだ。いつもレースで俺に予告してくれたとおりに勝ってくれてたし。絶対事故を起こすはずがないんだ」
伸治は父親が公道の交通事故で命を落としたことが今でも信じられないでいた。
「おじさんはここで死んだんじゃないわ」
いつの間にか伸治と清の前に見知らぬ小さな女の子が立っていた。雨も降っていないのに、カッパを着ている。
「おじさんはあそこで死んだのよ」
女の子はそう訂正すると、坂の上の方を指差した。坂の上に向かって銀杏並木が立ち並び、風にあおられてざわざわ揺れている。さらにその先には病院の建物が見えている。
伸治は、この女の子に見覚えがあった。ずっと以前、会ったような気がするのだが思い出せない。
もう一度、女の子の指差す銀杏の樹を見ると、枝から何かがぶら下がっているように見えた。風にあおられて揺れるその何かは、夕闇で形がはっきり分からない。
「この場所はね。あたしが死んだ場所なの」
「え? なんだって??」
伸治と清が同時に聞き返していた。
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