マカゼタマハの世界
わたくし真風玉葉(マカゼタマハ)のオリジナル小説を掲載していきます。 左のカテゴリより作品を選んでお読みください。
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銀杏坂(2)
「……それでさ、新型のカウルは俺に言わせりゃちょっとやぼったいんだよ。確かに空気抵抗はいいかもしれないけど、デザインがさ」
伸治は登校の途上で、クラスメイトの田中清に新型のバイクの談義に花を咲かせていた。
「伸治は熱心だなあ。俺には空気抵抗とかむずかしいことはわかんないけど、お前がかっこいいって言うんなら、そっちがいいんじゃないかな?」
清はだんだん熱くなる伸治のバイク談義に、ちょっと引きながらも相づちを打った。元来気の弱い清は、押しの強い伸治の性格には逆らわないことにしている。
「ただ、デザイン重視にするとエンジンを覆うのがむずかしいんだよこれが。この実用性と見た目のバランスこそが最大の問題で」
伸治は清のことなどお構いなしに、自分のバイクのデザインにかける情熱をぶつけていた。
「なんだか伸治はバイクに乗ることよりも、バイクのデザインの方が好きみたいだな。レーサーになるんじゃなかったのか?」
「あ? そうかなあ。まあレーサーはなりたいと思っても簡単になれるもんじゃないからな。ポケバイのレースに出場して分かったけど、俺にはレーサーの才能はないかもな。ともかく、来年俺は免許を取るぜ。待ち遠しくて毎日カレンダーに印をつけてるよ。だけど、おふくろが反対してるんだよな」
「なんで?」
「はっきり言葉にしないけどさ、分かるんだよ。俺がバイクに乗るのをやめて欲しいって思ってるな、っていうのが。俺がバイクの話をすると、いっつも暗い顔するんだよ」
バイクの話から、今度は母親へのグチに変わりだした。バイクもグチも口調は熱い。
が、とある坂の前に差し掛かったとたん、急に話をやめて立ち止まった。
「おい、どうした?」
さっきまで熱く語っていた伸治が急に黙り込んだので、清が聞き返した。数歩後で立ち止まっている伸治の前まで戻ると、伸治が見つめている先に目線を移した。
坂は緩やかに右にカーブを描きながら緩やかに上り坂になっている。道の両側には銀杏並木が植えてあり、通称銀杏坂と呼ばれている。
銀杏坂というなごやかな名前とは裏腹に、道の両側をがけに挟まれた日当たりの悪い坂道には、別名幽霊坂といういわくつきの名前もあった。その名のとおり、幽霊が出るとのもっぱらのうわさである。
「ここで俺のオヤジは事故って死んだんだ」
伸治はぼそりとつぶやいた。まるで自分に言い聞かすみたいな口調だった。
「ああ、そうだったっけ」
清はどう声をかけていいか分からずに、あいまいな返事をした。
それよりも清としては、あまりこの幽霊坂のそばにはいたくないのが正直な所だった。できれば足早に通り過ぎたいくらいで、わざわざ立ち止まってまで坂を観察したいとは思わなかった。それこそ変なものを見てしまったら大変なことだった。
さわやかな朝の日差しの中、銀杏坂だけ異様に薄暗く、そこだけ意図的に切り取って貼り付けた異世界のようだった。
伸治と清は、その銀杏坂にしばし魅入られたようにずっと目線を外せないでいた。ずいぶん長い時間のようだったし、ほんの一瞬のことのようでもあった。
ふとふたりは坂の途中に、不気味にうごめく黒い影を見たような気がした。
それが一体なんであるのか見定めようと、目を細める伸治の視界に、また別のものが現れた。
ふたりにとって見慣れた別なものは、同じクラスの女子、石川美由紀だった。
「なにこんな所でふたりして突っ立ってんの? ホラ、ぼさっとしてると遅刻するよ」
銀杏坂のてっぺんに建つ総合病院の院長の娘であり、クラス委員長でもあり、生徒会も務める美由紀は優等生を絵に描いたような生徒だった。その一方で、男子よりもサバサバした性格のとんだおてんば娘でもある。
幽霊坂の異名をとる、おどろおどろしい坂の上の病院の敷地内に住んでるとは思えないくらい、明るい美由紀は実にこの幽霊坂には似つかわしくない。
美由紀に尻をたたかれるようにうながされて、ようやく坂の呪縛から離れた伸治と清は、後ろ髪をひかれる思いを残しつつも学校へと向かった。
伸治は登校の途上で、クラスメイトの田中清に新型のバイクの談義に花を咲かせていた。
「伸治は熱心だなあ。俺には空気抵抗とかむずかしいことはわかんないけど、お前がかっこいいって言うんなら、そっちがいいんじゃないかな?」
清はだんだん熱くなる伸治のバイク談義に、ちょっと引きながらも相づちを打った。元来気の弱い清は、押しの強い伸治の性格には逆らわないことにしている。
「ただ、デザイン重視にするとエンジンを覆うのがむずかしいんだよこれが。この実用性と見た目のバランスこそが最大の問題で」
伸治は清のことなどお構いなしに、自分のバイクのデザインにかける情熱をぶつけていた。
「なんだか伸治はバイクに乗ることよりも、バイクのデザインの方が好きみたいだな。レーサーになるんじゃなかったのか?」
「あ? そうかなあ。まあレーサーはなりたいと思っても簡単になれるもんじゃないからな。ポケバイのレースに出場して分かったけど、俺にはレーサーの才能はないかもな。ともかく、来年俺は免許を取るぜ。待ち遠しくて毎日カレンダーに印をつけてるよ。だけど、おふくろが反対してるんだよな」
「なんで?」
「はっきり言葉にしないけどさ、分かるんだよ。俺がバイクに乗るのをやめて欲しいって思ってるな、っていうのが。俺がバイクの話をすると、いっつも暗い顔するんだよ」
バイクの話から、今度は母親へのグチに変わりだした。バイクもグチも口調は熱い。
が、とある坂の前に差し掛かったとたん、急に話をやめて立ち止まった。
「おい、どうした?」
さっきまで熱く語っていた伸治が急に黙り込んだので、清が聞き返した。数歩後で立ち止まっている伸治の前まで戻ると、伸治が見つめている先に目線を移した。
坂は緩やかに右にカーブを描きながら緩やかに上り坂になっている。道の両側には銀杏並木が植えてあり、通称銀杏坂と呼ばれている。
銀杏坂というなごやかな名前とは裏腹に、道の両側をがけに挟まれた日当たりの悪い坂道には、別名幽霊坂といういわくつきの名前もあった。その名のとおり、幽霊が出るとのもっぱらのうわさである。
「ここで俺のオヤジは事故って死んだんだ」
伸治はぼそりとつぶやいた。まるで自分に言い聞かすみたいな口調だった。
「ああ、そうだったっけ」
清はどう声をかけていいか分からずに、あいまいな返事をした。
それよりも清としては、あまりこの幽霊坂のそばにはいたくないのが正直な所だった。できれば足早に通り過ぎたいくらいで、わざわざ立ち止まってまで坂を観察したいとは思わなかった。それこそ変なものを見てしまったら大変なことだった。
さわやかな朝の日差しの中、銀杏坂だけ異様に薄暗く、そこだけ意図的に切り取って貼り付けた異世界のようだった。
伸治と清は、その銀杏坂にしばし魅入られたようにずっと目線を外せないでいた。ずいぶん長い時間のようだったし、ほんの一瞬のことのようでもあった。
ふとふたりは坂の途中に、不気味にうごめく黒い影を見たような気がした。
それが一体なんであるのか見定めようと、目を細める伸治の視界に、また別のものが現れた。
ふたりにとって見慣れた別なものは、同じクラスの女子、石川美由紀だった。
「なにこんな所でふたりして突っ立ってんの? ホラ、ぼさっとしてると遅刻するよ」
銀杏坂のてっぺんに建つ総合病院の院長の娘であり、クラス委員長でもあり、生徒会も務める美由紀は優等生を絵に描いたような生徒だった。その一方で、男子よりもサバサバした性格のとんだおてんば娘でもある。
幽霊坂の異名をとる、おどろおどろしい坂の上の病院の敷地内に住んでるとは思えないくらい、明るい美由紀は実にこの幽霊坂には似つかわしくない。
美由紀に尻をたたかれるようにうながされて、ようやく坂の呪縛から離れた伸治と清は、後ろ髪をひかれる思いを残しつつも学校へと向かった。
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