マカゼタマハの世界
わたくし真風玉葉(マカゼタマハ)のオリジナル小説を掲載していきます。 左のカテゴリより作品を選んでお読みください。
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銀杏坂(1)
朝。どこの家庭も同じく迎える朝食の時間。高橋伸治の家庭は母とふたりきりで迎える朝食の時間だった。
父親は伸治が小学生一年生の時に亡くなっていて、今では2DKマンションのささやかな仏壇で振りまいているさわやかな笑顔の遺影でしか、その顔を見ることはできない。
だからといって伸治の父が、伸治や、その母親の記憶から消えることなど今まで一度もなかったし、家中のあちこちに飾られた亡き父の遺したトロフィーや賞状など数々の遺品たちがほこらしげに家族たちをいつでも見守っていた。
伸治には朝起きて一番に行う、つい最近出来た日課があった。
それはカレンダーに印をつけること。昨日の日付にバッテン印をつけて、来るべき日に備えてカウントダウンしていた。今日も極太の油性マジックで、昨日の日付にバツ印をつけてひとりうなずく。
伸治は朝食のテーブルに着くと、自分の部屋から持ってきた雑誌を広げた。オートバイの雑誌だ。
中学三年生の伸治は、まだオートバイは乗れないが、小学生の頃から乗っているポケットバイクを持っていた。オートバイのレーサーだった父親の影響で、バイクに興味を持ち、幼少の頃からバイクに慣れ親しんできていた。
生前数々のレースで優勝してきた父親は、伸治にとってヒーローで憧れの存在だった。そんな憧れの父に少しでも近づきたくて、来年自動二輪免許が取れる日が来るのが待ち遠しくてしかたなかった。
というわけで、今からどんなバイクに乗るのか雑誌でチェックしているのである。でも高橋家は裕福な家庭ではないので、伸治は自分でアルバイトをして稼いだお金で買うつもりでいた。母親に負担はかけたくなかった体。もちろん免許も自分で稼いだお金で取得するつもりでいる。
ちなみにバイクは、まずは中古の原付を買う予定だったが、スクーターではなく、見栄えがするスポーツタイプと強く決めていた。
「伸治、ご飯食べる時は読むのをやめなさい」
伸治の母親、高橋翔子がキッチンから声を上げた。そういう翔子だって、キッチンに立ったまま食事をしながら、出勤の身支度をしている。主婦と一家の大黒柱を両立させるためには、こうでもしないと朝の忙しい時間を乗り切れないようだ。
伸治は母親の方を見もせず生返事をした。構わず雑誌を読み続ける。新型のバイクの記事に釘付けだった。
「伸治」
母親の声が少しきつくなった。ちょっとイラついてる声に変わった。
「あ、いっけね、もうこんな時間だ。いってきまーす」
伸治は時計を見るなり大声を上げた。急いでカバンをつかむと母親を無視するように家を飛び出した。
「ちょっと伸治。今日はお父さんの命日だから、早く帰ってくるのよ。お母さんも仕事早めにあがるから」
勢いよく飛び出していった息子の背中に向かって、翔子は叫ぶように言った。伸治は聞こえているのかいないのか、返事はなかった。翔子はあきれるようにため息をついた。
テーブルの上に置きっぱなしになっているオートバイの雑誌を手に取ると、翔子の表情は暗くなった。そして仏壇で微笑む亡き夫に祈るように手を合わせた。
父親は伸治が小学生一年生の時に亡くなっていて、今では2DKマンションのささやかな仏壇で振りまいているさわやかな笑顔の遺影でしか、その顔を見ることはできない。
だからといって伸治の父が、伸治や、その母親の記憶から消えることなど今まで一度もなかったし、家中のあちこちに飾られた亡き父の遺したトロフィーや賞状など数々の遺品たちがほこらしげに家族たちをいつでも見守っていた。
伸治には朝起きて一番に行う、つい最近出来た日課があった。
それはカレンダーに印をつけること。昨日の日付にバッテン印をつけて、来るべき日に備えてカウントダウンしていた。今日も極太の油性マジックで、昨日の日付にバツ印をつけてひとりうなずく。
伸治は朝食のテーブルに着くと、自分の部屋から持ってきた雑誌を広げた。オートバイの雑誌だ。
中学三年生の伸治は、まだオートバイは乗れないが、小学生の頃から乗っているポケットバイクを持っていた。オートバイのレーサーだった父親の影響で、バイクに興味を持ち、幼少の頃からバイクに慣れ親しんできていた。
生前数々のレースで優勝してきた父親は、伸治にとってヒーローで憧れの存在だった。そんな憧れの父に少しでも近づきたくて、来年自動二輪免許が取れる日が来るのが待ち遠しくてしかたなかった。
というわけで、今からどんなバイクに乗るのか雑誌でチェックしているのである。でも高橋家は裕福な家庭ではないので、伸治は自分でアルバイトをして稼いだお金で買うつもりでいた。母親に負担はかけたくなかった体。もちろん免許も自分で稼いだお金で取得するつもりでいる。
ちなみにバイクは、まずは中古の原付を買う予定だったが、スクーターではなく、見栄えがするスポーツタイプと強く決めていた。
「伸治、ご飯食べる時は読むのをやめなさい」
伸治の母親、高橋翔子がキッチンから声を上げた。そういう翔子だって、キッチンに立ったまま食事をしながら、出勤の身支度をしている。主婦と一家の大黒柱を両立させるためには、こうでもしないと朝の忙しい時間を乗り切れないようだ。
伸治は母親の方を見もせず生返事をした。構わず雑誌を読み続ける。新型のバイクの記事に釘付けだった。
「伸治」
母親の声が少しきつくなった。ちょっとイラついてる声に変わった。
「あ、いっけね、もうこんな時間だ。いってきまーす」
伸治は時計を見るなり大声を上げた。急いでカバンをつかむと母親を無視するように家を飛び出した。
「ちょっと伸治。今日はお父さんの命日だから、早く帰ってくるのよ。お母さんも仕事早めにあがるから」
勢いよく飛び出していった息子の背中に向かって、翔子は叫ぶように言った。伸治は聞こえているのかいないのか、返事はなかった。翔子はあきれるようにため息をついた。
テーブルの上に置きっぱなしになっているオートバイの雑誌を手に取ると、翔子の表情は暗くなった。そして仏壇で微笑む亡き夫に祈るように手を合わせた。
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