マカゼタマハの世界
わたくし真風玉葉(マカゼタマハ)のオリジナル小説を掲載していきます。 左のカテゴリより作品を選んでお読みください。
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世界のしくみ(2)
ここ二三日、カナコは同じ夢を見つづけていた。
姿の見えない誰かから話しかけられる夢だ。
その誰かは必死で自分にメッセージを送り続けているみたいなのだが、自分はというと眠っていて全く気がつかないのだった。
そんな様子を客観的に見ている夢で、どうにももどかしくて仕方ない。カナコは自分に向かって、気づいてあげろよ! と叫ぶのだが、その声すら自分には聞こえていないようだった。なんとももどかしい夢。
朝の食卓にはすでに朝食が並んでいた。今朝はトーストにハムエッグ、サラダ、そしてホットミルクだ。
ママが食卓に並べているが、もちろん作ったのはママではない。ママの仕事は配給されてきたこれらの食事を温めるだけなのだ。
「ねえ、わたしゆうべも変な夢見た」
「アラ、また見たの? 気にしない方がいいわよ。ママなんて全然夢見ないもの。カナコみたいに夢を見られるなんてうらやましいわ。さ、早く食べちゃいなさい。学校遅れるわよ」
ママに全く相手にしてもらえず、カナコがしかめっつらでトーストにかじりつくと、パパが食卓に着いた。
「おはよう。カナコ、夜寝る時に端末でテレビつけっぱなしで見てるだろう? それが良くないんだよ」
「ふぅ〜ん。どうして?」
「え? あ、いや、テレビや携帯からは脳波に影響を与える特殊な信号が発信されているからね。それを寝ながら浴びるということは、番組がそのまま夢に現れる可能性があるってことだ」
「そうかなあ? テレビは毎晩違うこと言ってるのに、夢は毎晩一緒だよ。今朝だって昨日と違うニュースしてるじゃない」
カナコはリビングのテレビを指差した。そこには朝の情報番組が映っている。いつも同じような番組に見えて、ニュースは毎回違ったことを言っている。よく、毎日毎日ニュースがあるもんだ、とカナコは不思議に思う。たまにはニュースのない日だってあってもいいじゃない。
「そうかなあ? いつもと同じ平和なことを言ってるように見えるぞ」
パパはテレビを見ながら言った。すごく気のない言い方に聞こえた。
「違うよ。毎日違うこと言ってるよ。今朝はアメリカのえらい人が日本に来たこと言ってるけど、昨日は……昨日は??」
カナコは昨日のニュースを言おうとしたが思い出せなかった。なんだっけ? 何か言ってたように思うのだが、思い出せない。
きっとどうでもいいニュースに違いない。記憶に残らないニュースなんて、本当どうでもいいのだ、多分。それこそ、誰かが適当に作ったニュースに違いない。フィクションってヤツだ。
「きっと本当のニュース自体はネタ切れで、誰かがこっそり作ったにせもののニュースなんだよ。ホラ、お笑い芸人だって、ネタが尽きたら同じようなギャグを使いまわすじゃない。あれと一緒よ」
「そ、そんなことあるわけないじゃないか! ニュースとお笑いを一緒にするなんて失礼だぞ!」
急にパパがうろたえた。
「それにニュースもどこか変よ。犯罪事件が全くないなんておかしいわ。いつも良いニュースしか言わないなんて不自然よ。たまには悪いこともないと。これはきっと誰かが情報操作しているのよ」
「カナコ! 誰がそんなことを言ってる!? そんなことはないぞ! 断じてない!」
突然パパが立ち上がって激昂した。
カナコはびっくりしてその場に硬直した。普段は優しいパパなのに、すごい剣幕だったからあっけに取られてしまったのだ。
「アラ、ママは毎日平和なニュースの方がうれしいわ。犯罪だなんてママ怖いわ。ホラ、カナコくだらないこと言ってないで。早くしないとバスに乗り遅れるわよ」
「うわ、まっずーい!」
カナコは慌ててパンをくわえたまま家を飛び出した。
五年前に自家用車廃止令が施行されてからというもの、公共の交通機関だけが市民の足となった。
発足当初は多少の反発はあったものの、完全コンピューター管理でバスや電車等のサービスを格段に向上させた結果、渋滞や混雑のない快適な交通機関が出来上がった。
何より、自家用車がなくなったことにより、自動車の数が激減し大気汚染が無くなった。また化石燃料の消費量も減った。
この一見強引にも思える政策も、いざ始めてみると市民はすっかり慣れ親しんでしまった。いまや誰一人としてこの現状に疑問を抱くものはいない。
というよりも、あまりにも市民はこの政策に対して従順すぎた。
カナコが家を飛び出すと同時に、スクールバスが家の前にやってきた。こうやって地区ごとに一軒一軒生徒の家の前を回っているのだ。
別にバスの時間に遅れたからといって、バスが通り過ぎてしまうことはなかった。家の前に出ていなくても、運転手が気を利かせて家のチャイムを鳴らしてくれるので、乗り遅れることはないのでありがたいことなのだが、この運転手にピンポンされるということはバス通学している者からすれば大変な恥で、それだけはなんとしても避けないといけないのだ。
カナコは平然とした面持ちでバスに乗り込む。ギリギリ間に合ったなんて思わせることなく。
それにしても。とカナコは思う。
なぜ他の生徒は誰一人として遅れないのだろう? みんな判で押したように時間に正確だ。
自分だけがこうして毎朝ギリギリでバスに乗るのはどうしてなのか? それとも他の生徒も自分と同じくギリギリなんだけど、そんな風に見せてないだけ?
ああ、せめてバス通学じゃなくて自分の足で学校に通えたらなあ。と、いつもカナコは思うのだった。そうすればバスの時間を気にすることもなく……あ、いやそうすると今度は学校に遅れることになるのか。
バスがとある家の前を通りがかった時、カナコは窓から家を見つめた。
二階建ての別に特徴らしい特徴もない家だ。いかにも住宅地で建売されているようなごくごく普通の一軒屋で、カナコの家とそんなに違いはない。その家の外には誰もいないし、バスも停まらない。誰も乗せていくこともなく、その家の前を通り過ぎていった。
バスの後ろに流れていく家をカナコはいつまでも見つめていた。
「ねえねえ、昨日のテレビ見た?」
学校ではクラスメイトたちが昨日のバラエティー番組の話題で持ちきりだった。
「見た見た。新ネタ面白かったよねー」
カナコも友人たちの話題に加わる。カナコのグループはお笑い番組での芸人たちのネタを批評しあうのが、いつものトークの中心だった。
「面白いなんてもんじゃないよー。あれはねヤバイよ。ホント」
面白ければ何でもいいエリは、昨日の番組を思い出し笑いながらむせている。
「ホントすっごいよね。よくあんな面白いネタ次々に出せるよね」
芸人そのものよりも、ネタのデキにこだわりを持つサヤカは、とにかく感心しきり。
「天才だよ。もうこれからのお笑いを引っ張っていくんじゃない?」
たくさんの芸人の相関関係が気になって仕方ないフミは、芸能界全体の行く末をも見据えている。
友人たちが予想以上に熱狂的に話しているのを見て、カナコはふと自分がその話題の中に入れないでいるのに気がついた。
「ね、ねえ、ちょっとどうしたの? 何か変じゃない?」
「何が? カナコこそ変よ。どうしてそんなに冷静にいられるの? だってあんなに面白かったというのに」
エリはちっとも笑っていないカナコが不思議で仕方ない様子だ。
「確かに、面白かったけど、そこまで……」
「カナコは精神的にオトナなのよ。だから子供の話題なんかに興味ないのよ」
サヤカは眼鏡をかけなおし、カナコの顔をのぞき込んだ。まるで心の中を分析しようかというような仕草だ。
「そんなことないけど……。それよりさ、最近のニュースおかしくない? 何というか、すごく他人事みたいに感じるというか、現実的じゃないというか」
「わたしニュースなんて見ないからわかんない」
芸能界意外は全く興味のないフミの返事はそっけない。
「わたしもー」
「カナコってオトナだからさ、ニュースに興味があるんだよ」
「そんなことないって。だってあの芸能人カップルも離婚するって言う話も、何だか変だし……」
話が変な方向に行きそうになってカナコは慌てて調子を合わせた。
「あ、見たそれー。びっくりだよねー」
「だってあんなにお似合いのカップルだったのに」
「いや、わたしは逆によくここまで長続きした方だなって思うな」
「え? どうして?」
再び友人たちは熱狂的に話し始め、カナコはカヤの外へ追いやられてしまった。何か変だ。
どうして自分はこんなに友人たちの会話に入ることが出来ないのだろう? 自分が冷めてしまってるせいなのか? それとも友人たちが熱狂的過ぎるんだろうか?
カナコは教室を見渡した。生徒たちみんな昨日のテレビだったり、ネット上の話題だったり、何かしら熱狂的に話し込んでいる。その中になぜかうまく加われない自分がいた。
自分がおかしいのか? それとも周りが……?
教室には空いた席がひとつあった。三日前から空いたままのその席を気にするものはひとりもいなかった。
「ねえねえ、ちょっといいかな?」
カナコが空いた席のことを聞こうと思ったその時、チャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。カナコの言葉はさえぎられてしまった。
先生が出席を取り始め、生徒は順番に返事をする。しかし、空いた席の生徒の名前は呼ばれなかった。なぜいないのかさえも説明がない。三日前からそうだ。
なぜ誰も指摘しないのだろう? なぜ誰も気づかないのだろう?
たまりかねたカナコは立ち上がった。
「先生、弓原さんはなぜ学校を休んでいるんですか?」
教室がしんと静まり返った。なんだか不穏な空気だ。
「弓原さん?」
中年の男性担任が聞き返してきた。眼鏡をかけなおす仕草をしてもう一度聞き返す。
「弓原さんとは誰ですか?」
気の弱い中年教師は、カナコの剣幕に少し押されぎみに声が小刻みに震えている。
「は!? 弓原イクミさんですよ! 図書委員で、吹奏楽部の!」
カナコはつい声を荒げた。先生がとぼけたり、冗談を言ってるようには思えなかったが、何かおかしい。
教室中がどよめきだした。何かおかしい。
「弓原さんとは誰ですか?」
中年教師は教壇の上で震えてるんじゃないかと思えるくらい、弱々しい声で同じ言葉を繰り返した。
「いえ、なんでもありません……」
カナコは空気が抜けたみたいにイスに座り込んだ。顔が真っ赤になるくらい恥ずかしかった。なんなのだろう? この違和感は?
「ねえねえカナコ、誰それ? 弓原イクミって?」
後ろの席のフミが小声でささやきかけてきた。軽く笑っている所をみると、カナコが何かのギャグでもやったかのように思っているらしい。見ればクラス中の生徒がカナコを注目して、笑ったりささやきあったりしている。
「ねえ、ホントにイクミのこと知らないの?」
カナコはフミにたずね返した。つい四日前まで一緒のグループで仲良くしていた仲間なのだ。
「だから、イクミって誰よ?」
カナコはこの場から逃げ出したい気分だった。
自分がおかしいのか? それとも周りがおかしいのか? どっちなのか?
クラスでただひとり、国崎キョウコだけがじっと真顔でカナコのことを見つめていた。
姿の見えない誰かから話しかけられる夢だ。
その誰かは必死で自分にメッセージを送り続けているみたいなのだが、自分はというと眠っていて全く気がつかないのだった。
そんな様子を客観的に見ている夢で、どうにももどかしくて仕方ない。カナコは自分に向かって、気づいてあげろよ! と叫ぶのだが、その声すら自分には聞こえていないようだった。なんとももどかしい夢。
朝の食卓にはすでに朝食が並んでいた。今朝はトーストにハムエッグ、サラダ、そしてホットミルクだ。
ママが食卓に並べているが、もちろん作ったのはママではない。ママの仕事は配給されてきたこれらの食事を温めるだけなのだ。
「ねえ、わたしゆうべも変な夢見た」
「アラ、また見たの? 気にしない方がいいわよ。ママなんて全然夢見ないもの。カナコみたいに夢を見られるなんてうらやましいわ。さ、早く食べちゃいなさい。学校遅れるわよ」
ママに全く相手にしてもらえず、カナコがしかめっつらでトーストにかじりつくと、パパが食卓に着いた。
「おはよう。カナコ、夜寝る時に端末でテレビつけっぱなしで見てるだろう? それが良くないんだよ」
「ふぅ〜ん。どうして?」
「え? あ、いや、テレビや携帯からは脳波に影響を与える特殊な信号が発信されているからね。それを寝ながら浴びるということは、番組がそのまま夢に現れる可能性があるってことだ」
「そうかなあ? テレビは毎晩違うこと言ってるのに、夢は毎晩一緒だよ。今朝だって昨日と違うニュースしてるじゃない」
カナコはリビングのテレビを指差した。そこには朝の情報番組が映っている。いつも同じような番組に見えて、ニュースは毎回違ったことを言っている。よく、毎日毎日ニュースがあるもんだ、とカナコは不思議に思う。たまにはニュースのない日だってあってもいいじゃない。
「そうかなあ? いつもと同じ平和なことを言ってるように見えるぞ」
パパはテレビを見ながら言った。すごく気のない言い方に聞こえた。
「違うよ。毎日違うこと言ってるよ。今朝はアメリカのえらい人が日本に来たこと言ってるけど、昨日は……昨日は??」
カナコは昨日のニュースを言おうとしたが思い出せなかった。なんだっけ? 何か言ってたように思うのだが、思い出せない。
きっとどうでもいいニュースに違いない。記憶に残らないニュースなんて、本当どうでもいいのだ、多分。それこそ、誰かが適当に作ったニュースに違いない。フィクションってヤツだ。
「きっと本当のニュース自体はネタ切れで、誰かがこっそり作ったにせもののニュースなんだよ。ホラ、お笑い芸人だって、ネタが尽きたら同じようなギャグを使いまわすじゃない。あれと一緒よ」
「そ、そんなことあるわけないじゃないか! ニュースとお笑いを一緒にするなんて失礼だぞ!」
急にパパがうろたえた。
「それにニュースもどこか変よ。犯罪事件が全くないなんておかしいわ。いつも良いニュースしか言わないなんて不自然よ。たまには悪いこともないと。これはきっと誰かが情報操作しているのよ」
「カナコ! 誰がそんなことを言ってる!? そんなことはないぞ! 断じてない!」
突然パパが立ち上がって激昂した。
カナコはびっくりしてその場に硬直した。普段は優しいパパなのに、すごい剣幕だったからあっけに取られてしまったのだ。
「アラ、ママは毎日平和なニュースの方がうれしいわ。犯罪だなんてママ怖いわ。ホラ、カナコくだらないこと言ってないで。早くしないとバスに乗り遅れるわよ」
「うわ、まっずーい!」
カナコは慌ててパンをくわえたまま家を飛び出した。
五年前に自家用車廃止令が施行されてからというもの、公共の交通機関だけが市民の足となった。
発足当初は多少の反発はあったものの、完全コンピューター管理でバスや電車等のサービスを格段に向上させた結果、渋滞や混雑のない快適な交通機関が出来上がった。
何より、自家用車がなくなったことにより、自動車の数が激減し大気汚染が無くなった。また化石燃料の消費量も減った。
この一見強引にも思える政策も、いざ始めてみると市民はすっかり慣れ親しんでしまった。いまや誰一人としてこの現状に疑問を抱くものはいない。
というよりも、あまりにも市民はこの政策に対して従順すぎた。
カナコが家を飛び出すと同時に、スクールバスが家の前にやってきた。こうやって地区ごとに一軒一軒生徒の家の前を回っているのだ。
別にバスの時間に遅れたからといって、バスが通り過ぎてしまうことはなかった。家の前に出ていなくても、運転手が気を利かせて家のチャイムを鳴らしてくれるので、乗り遅れることはないのでありがたいことなのだが、この運転手にピンポンされるということはバス通学している者からすれば大変な恥で、それだけはなんとしても避けないといけないのだ。
カナコは平然とした面持ちでバスに乗り込む。ギリギリ間に合ったなんて思わせることなく。
それにしても。とカナコは思う。
なぜ他の生徒は誰一人として遅れないのだろう? みんな判で押したように時間に正確だ。
自分だけがこうして毎朝ギリギリでバスに乗るのはどうしてなのか? それとも他の生徒も自分と同じくギリギリなんだけど、そんな風に見せてないだけ?
ああ、せめてバス通学じゃなくて自分の足で学校に通えたらなあ。と、いつもカナコは思うのだった。そうすればバスの時間を気にすることもなく……あ、いやそうすると今度は学校に遅れることになるのか。
バスがとある家の前を通りがかった時、カナコは窓から家を見つめた。
二階建ての別に特徴らしい特徴もない家だ。いかにも住宅地で建売されているようなごくごく普通の一軒屋で、カナコの家とそんなに違いはない。その家の外には誰もいないし、バスも停まらない。誰も乗せていくこともなく、その家の前を通り過ぎていった。
バスの後ろに流れていく家をカナコはいつまでも見つめていた。
「ねえねえ、昨日のテレビ見た?」
学校ではクラスメイトたちが昨日のバラエティー番組の話題で持ちきりだった。
「見た見た。新ネタ面白かったよねー」
カナコも友人たちの話題に加わる。カナコのグループはお笑い番組での芸人たちのネタを批評しあうのが、いつものトークの中心だった。
「面白いなんてもんじゃないよー。あれはねヤバイよ。ホント」
面白ければ何でもいいエリは、昨日の番組を思い出し笑いながらむせている。
「ホントすっごいよね。よくあんな面白いネタ次々に出せるよね」
芸人そのものよりも、ネタのデキにこだわりを持つサヤカは、とにかく感心しきり。
「天才だよ。もうこれからのお笑いを引っ張っていくんじゃない?」
たくさんの芸人の相関関係が気になって仕方ないフミは、芸能界全体の行く末をも見据えている。
友人たちが予想以上に熱狂的に話しているのを見て、カナコはふと自分がその話題の中に入れないでいるのに気がついた。
「ね、ねえ、ちょっとどうしたの? 何か変じゃない?」
「何が? カナコこそ変よ。どうしてそんなに冷静にいられるの? だってあんなに面白かったというのに」
エリはちっとも笑っていないカナコが不思議で仕方ない様子だ。
「確かに、面白かったけど、そこまで……」
「カナコは精神的にオトナなのよ。だから子供の話題なんかに興味ないのよ」
サヤカは眼鏡をかけなおし、カナコの顔をのぞき込んだ。まるで心の中を分析しようかというような仕草だ。
「そんなことないけど……。それよりさ、最近のニュースおかしくない? 何というか、すごく他人事みたいに感じるというか、現実的じゃないというか」
「わたしニュースなんて見ないからわかんない」
芸能界意外は全く興味のないフミの返事はそっけない。
「わたしもー」
「カナコってオトナだからさ、ニュースに興味があるんだよ」
「そんなことないって。だってあの芸能人カップルも離婚するって言う話も、何だか変だし……」
話が変な方向に行きそうになってカナコは慌てて調子を合わせた。
「あ、見たそれー。びっくりだよねー」
「だってあんなにお似合いのカップルだったのに」
「いや、わたしは逆によくここまで長続きした方だなって思うな」
「え? どうして?」
再び友人たちは熱狂的に話し始め、カナコはカヤの外へ追いやられてしまった。何か変だ。
どうして自分はこんなに友人たちの会話に入ることが出来ないのだろう? 自分が冷めてしまってるせいなのか? それとも友人たちが熱狂的過ぎるんだろうか?
カナコは教室を見渡した。生徒たちみんな昨日のテレビだったり、ネット上の話題だったり、何かしら熱狂的に話し込んでいる。その中になぜかうまく加われない自分がいた。
自分がおかしいのか? それとも周りが……?
教室には空いた席がひとつあった。三日前から空いたままのその席を気にするものはひとりもいなかった。
「ねえねえ、ちょっといいかな?」
カナコが空いた席のことを聞こうと思ったその時、チャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。カナコの言葉はさえぎられてしまった。
先生が出席を取り始め、生徒は順番に返事をする。しかし、空いた席の生徒の名前は呼ばれなかった。なぜいないのかさえも説明がない。三日前からそうだ。
なぜ誰も指摘しないのだろう? なぜ誰も気づかないのだろう?
たまりかねたカナコは立ち上がった。
「先生、弓原さんはなぜ学校を休んでいるんですか?」
教室がしんと静まり返った。なんだか不穏な空気だ。
「弓原さん?」
中年の男性担任が聞き返してきた。眼鏡をかけなおす仕草をしてもう一度聞き返す。
「弓原さんとは誰ですか?」
気の弱い中年教師は、カナコの剣幕に少し押されぎみに声が小刻みに震えている。
「は!? 弓原イクミさんですよ! 図書委員で、吹奏楽部の!」
カナコはつい声を荒げた。先生がとぼけたり、冗談を言ってるようには思えなかったが、何かおかしい。
教室中がどよめきだした。何かおかしい。
「弓原さんとは誰ですか?」
中年教師は教壇の上で震えてるんじゃないかと思えるくらい、弱々しい声で同じ言葉を繰り返した。
「いえ、なんでもありません……」
カナコは空気が抜けたみたいにイスに座り込んだ。顔が真っ赤になるくらい恥ずかしかった。なんなのだろう? この違和感は?
「ねえねえカナコ、誰それ? 弓原イクミって?」
後ろの席のフミが小声でささやきかけてきた。軽く笑っている所をみると、カナコが何かのギャグでもやったかのように思っているらしい。見ればクラス中の生徒がカナコを注目して、笑ったりささやきあったりしている。
「ねえ、ホントにイクミのこと知らないの?」
カナコはフミにたずね返した。つい四日前まで一緒のグループで仲良くしていた仲間なのだ。
「だから、イクミって誰よ?」
カナコはこの場から逃げ出したい気分だった。
自分がおかしいのか? それとも周りがおかしいのか? どっちなのか?
クラスでただひとり、国崎キョウコだけがじっと真顔でカナコのことを見つめていた。
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